お知らせ

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行政を対象とする不当要求への対応

暴力団追放運動推進都民センター会報(BTSインフォメーション)令和元年12月号に掲載

(以下転載)

          第二東京弁護士会 民事介入暴力対策委員会 副委員長 久保田陽子

 

「不当要求には,毅然として対応する」これが,不当要求対応の基本である。しかし,不当要求者に対して,「もう来ないでください」と言えないとしたら,どうだろうか。「いつまでも付き合いが続く」としたら,どこに出口を見いだせばよいだろうか。

私企業は,基本的に,私的自治の原則,契約自由の原則に基づいて,取引するかどうかを自由に決められる。悪質クレーマーに対しても,最終手段として,「以後のお取引はお断り」と言える。

 これに対して,行政機関は,私企業と異なり,自由にサービスを止めることができない。特に地方自治体は,住民からいかに不当な要求を受けても,「うちの自治体は,今後あなたとはお付き合いしない」とは言えない。住民は,他の自治体に転出しない限り,「お客様」だからだ。それでもまだ,一般住民との関係ならば,問題は少ない。職員との接触は,一回ごとの申請や届出で区切られる。しかし,公立の小中学校となると,入学から卒業まで長期間,保護者及び児童との関係が続く。「明日から,登校しないでください」とは言えない。市民病院などの医療施設でも,治療する限り,患者との関係が続く。医師には,医師法上,診察の求めに応じる義務もある。

 さらに,自治体は,高齢者,障がい者,生活保護受給者など,いわゆる社会的弱者に対して,行政サービスを提供している。弱者から過大な要求を受けた場合,弱者への配慮と不当要求対応との間で葛藤が生じることもあり得る。

 自治体は,不当要求対応に悩まされ続けている。行政対象暴力が注目されるきっかけとなったのは,平成13年のいわゆる鹿沼事件だった。この事件では,市職員が廃棄物行政に関して殺害された。当時から20年近く経った今でも,自治体の職員には,不当要求対応に疲弊して心身を病む方がいる。平成28年には,大阪地裁が,行政を対象にした不当要求行為について,「正当な権利行使としての限度を超え」た不法行為にあたると判断した。氷山の一角だろう。本年7月の報道は記憶に新しい。関西の自治体で,生活保護のケースワーカーが,生活保護受給者と一緒に死体遺棄行為を行っていた。日誌には,繰り返し暴言を吐かれたことが記されていたという。

東京三弁護士会の民暴対策委員会では,これまでも,東京法務局と連携し,行政機関向けにえせ同和行為対応の研修を実施してきているが,近時の報道に接すると,さらに,自治体に目を向ける必要性を痛感する。

第二東京弁護士会の民暴対策委員会では,自治体に対する支援の一環として,研修を実施した。研修では,自治体の窓口職員向けにロールプレイ・寸劇を行ったほか,管理・監督職向けにグループ討議を行った。ロールプレイには,自治体の女性職員も進んで参加していた。ロールプレイの終了後,職員からは,「演技と分かっていても,手が震えた」といった感想が出た。「お客様」の一言が,どれほど鋭利な武器になるかを実感させられた。また,グループ討議では,「液体をかけられた」「刃物を見せられた」という話も出た。職員の意欲や真剣な眼差しの裏に,日頃の不当要求対応の厳しさが窺われた。

自治体は,住民との関係を完全に断ち切ることができない。公平にサービスを提供しなければならない。しかし,不当要求者を特別扱いすることはできない。職員の能力と住民の税金を,不当要求者への過剰サービスに浪費するのではなく,善良な市民の生活向上に生かしてほしい。行政サービスと不当要求対応とを区別し,あくまでも毅然と対応すべきである。組織全体で対応し,警察や弁護士とも連携する必要がある。

いかに冬が厳しくとも翌年には温かい春が来るように,どれほど悩みが深くても,必ず出口はある。地方自治体も私企業も,不当要求に阻まれることなく,本来の業務に邁進していただきたい。民暴弁護士の1人として,今後も,行政や私企業に寄り添い,不当要求への毅然とした対応を応援していきたい。

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